先週は、米10年債利回りが一時4.59%台まで上昇する場面があった。18日のニューヨーク時間に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)参加メンバーらによる金利見通し(ドット・プロット)において、来年の米利下げ回数が「2回」に留まる可能性を示唆したことが大きかったのは言うまでもない。
あろうことか、19名のメンバーのうち4名は「1回ないしは0回」と予想していたことが判明し、来年のPCEデフレータの見通しが従来の2.1%から2.5%に大きく上方修正されたこともサプライズ。さらに、FOMC後の会見で米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が「利下げサイクルにおける第1段階の終了」を宣言し、金利調整プロセスが新たな段階に入ったとの認識を示したこともインパクト大であった。
総じて、今回のFOMCは想定していた以上にタカ派寄りであったとの印象が強く、パウエル議長は「一部のFOMCメンバーがトランプ次期政権発足に伴う政策変更による物価への影響を予測に織り込んだ」と語っていた。多少の意外感を持って受け止めた向きもあるようだが、トランプ氏がこれまでに掲げてきた政策案の多くが実施される運びとなれば、米インフレ率が再び強含むこととなるのは自明であり、それを考慮して米金利の行方を予想するのは当然のこととも言える。
むろん、現実的にはトランプ氏が唱える関税引き上げや移民の大規模強制送還などの政策案のうち実施できるのは一部に留まる可能性も十分にある。その点について、パウエル議長は「急ぐことなく時間をかけて、政策がどのようなもので、それがどのように実施されるのかを実際に見たうえで慎重に評価を行う必要がある」と述べていた。
つまるところ、今回のドット・プロットは「あくまで『次期大統領就任1カ月前』という特殊な状況下において打ち出されたもの」であって、今後いかようにも見直される可能性があると捉えておく必要があろう。
もちろん、目下は日銀にも『トランプリスク』を考慮した政策判断が求められているわけで、奇しくも植田総裁は先週の会見で「米国の経済政策の先行きがどうなるか、大きなクエスチョンマークがある」と語っていた。加えて、来年の春季労使交渉(春闘)の行方も見定める必要があり、今回の利上げ見送りが“誤診”であったとは言えない。
ただ、植田総裁が「輸入物価の対前年比は落ち着いている」などとし、円安への懸念に言及しなかったことにはやはり疑問が残る。実際、先週はドル/円が一時158円近くまで上値を伸ばす場面があり、今後の深刻な影響が懸念される状況となってきている。
先週末にかけては、複数の本邦政府高官から円安をけん制する発言が相次ぎ、ひとまずは一段の円安進行に歯止めがかかった格好だが、言うまでもなく口先介入の効果などタカが知れたものに過ぎない。救いだったのは、20日に発表された11月の米個人消費支出(PCE)価格指数で、食品とエネルギーを除くコア・デフレータが予想を下回ったことでドルに売りが出たことであった。
今週は、25日に植田日銀総裁が経団連審議委員会で講演する予定となっており、居並ぶ大企業経営者の前で「円安の影響に言及するのかどうか」、また日銀会合通過後の20日に発表された11月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比で2.7%も上昇したことについて「どのような所感を持っているか」といった点に耳を傾けておきたい。
思えば、先週の日銀会合前のドル/円は155円手前あたりの水準に位置していた。それが、後に158円近辺まで一時的にも大きく振れたという事実が、日銀総裁の今後の発言に影響する可能性は十分にあろう。また、生活実感としての国内物価高が多少なり物価指標に反映されれば、次の日銀利上げに対する市場の見方が変化する可能性もある。
先週末に見られた「FOMC後の急激なドル高の調整」が週明け以降も続くかどうかが目先は最大の焦点になる。
(12/23 07:00)
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