先週25日に行われた経団連審議委員会での植田日銀総裁の講演に、市場は大いに注目した。しかし、その内容に何ら目新しさは感じられず、むしろその後は円安・ドル高が一段と進む流れとなった。この日、総裁は「今後の金融政策運営はトランプ次期米政権の動向や来年の春闘に向けた動きを注視していく」との考えを表明。確かに「そのとき」が訪れないとわからないことなのであるから、それは十分理解できる。
ただ、12月の日銀会合の結果と総裁会見の内容が伝わった後にドル/円が158円近辺まで急上昇した主要因の一つが「円安による物価への影響に総裁が言及しなかったこと」にあったと考えると、今回も言及せずというのはどうにも合点が行かない。
11月は米類が前年同月比で63.9%も上昇し、全体の75%の品目が前年同月と比べて上昇した。家計は大いに圧迫されているわけで、その一因が円安にあることが明らかである以上は、日銀総裁の立場からもその点に少しは触れてほしいと考えるのは筆者だけであろうか。多少の“ガス抜き”効果は発揮されると個人的には思う。
やはり、日銀による市場とのコミュニケーションの現状には多くの問題があると考えざるを得ない。むろん、その点は日銀サイドもある程度は自覚しているようであり、いろいろと試行錯誤する姿も見受けられてはいる。
その意味で、当面の最大の焦点になるのは「1月(23-24日)の金融政策決定会合に向けて、日銀サイドからどのようなメッセージが市場に届けられるか」ということになろう。既に伝わるとおり、1月14日には氷見野副総裁が神奈川県金融経済懇談会に出席し、その後記者会見を行うという。日銀が年明け最初の決定会合を前にこうした懇談会を開くのは、少なくとも2013年に黒田東彦氏が総裁に就任して以降では初めてのことだそうで、さぞや多くの注目を集めることとなるであろう。
振り返ると、今年7月に日銀が想定外の追加利上げを決定し、それが世界的市場乱高下の主要因になったとの批判が高まったことに対して、植田総裁は「会合の前にコミュニケーションの機会があればよかった」と語っていた。むろん、異例の懇談会開催がイコール利上げ予告というわけでは必ずしもない。とはいえ、今後は日銀がこれまで以上に積極的なコミュニケーションの機会を設けることに期待したいし、そうなれば無用な相場の乱高下も極力避けられることとなろう。
とまれ、足元でドル/円が上値にやや慎重になっている模様であることも事実。12月の日銀会合を通過した今、次は1月の会合における利上げ実施決定の可能性に一応備えておこうとするのは当然のことである。
ただ、既にその点を一部で織り込み始めているとして、その一方で米10年債利回りが4.6%台を回復してきている状況下では、いましばらく円の上値が限られるというのも道理ではある。トランプ次期米大統領が掲げる拡張的な財政政策が米国の政府債務負担を増大させると想定するならば、一定の米国債売りがしばらく続くことも避けられない。
まして、対ドルでのユーロやポンドの値動きが弱気に傾き続けていることも足元のドル高を助長している。とくに、ポンドに関しては英中銀による利下げの可能性が足元で高まり続けている。12月の英中銀金融政策委員会(MPC)は政策金利の据え置きを決めたが、9名の政策委員のうち3名が利下げを主張し、ハト派な色合いがやや濃くなりはじめている。後(23日)に発表された第3四半期の英実質GDP(確報値)が事前予想と前回実績を下回るものとなったことも、当面のポンドの上値を押さえやすい。
今週は海外勢の取引が再び活発化してくるものと考えられ、現在得られる材料だけをもとに考えれば、もう一段ドル高に振れる可能性を排除できない。当然、ドル/円の160円処は介入への警戒が強まりやすいが、それをものともしない動きが見られるか注目しておかねばなるまい。
(12/30 07:00)
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