先週末、NY市場終了後に新財務長官の指名が明らかになった。商務長官に指名されたラトニック氏(米証券会社カンターフィッツジェラルド社CEO)に次いで、またもや金融業界の辣腕経営者出身である。二人ともトランプ氏への多額支援者である。今回は空売りで財を成したヘッジファンド経営者で、その名は、1992年の英国ポンド売り投機で10億ドルの利益を出したといわれるジョージ・ソロスと共に働いたスコット・ベッセント(Scott Bessent)氏。一説によるとアベノミクスで円安が進んだ時にも、ドル買い円売りで莫大な利益を獲得したとも伝えられている。
発表はNY市場の終了後、筆者は、このニュースは相場に織り込まれていないと考え、これまでの経験から週明け後の25日(月)は為替市場に一定の影響(ドル高方向へ)が出ると考えた。結果としては、筆者の予想とは逆にドル安に展開している。週明け25日にの寄り付きは154.04円、引けは154.38円とドル堅調となったが、先週末よりドル高値は越えられず、場中は一時153円半ばまで売られるなど、ドルは下向きの流れを示してきた。現在は151.20円まで売られ、2日合わせて3円を超える大きなドル下げ幅(円急騰)となっている。
ただ、これでドル安に大きく進むかについては、気を付けなければならないことがある。ドル売りは通常キャリー損が出る(高い金利のドルを売るために毎日金利払いが発生する)ので、短期決戦となる。しかもヘッジファンドの取引素振りは、一気に売り浴びせることが特徴である。長期の支持線ともいえる200日移動平均線(現在152.00円)を今日のNY市場で明確に割り込むことになれば、一気に150円も割り、次のチャート的な重要ポイント、一目均衡表上の雲上限(現在147.76円近辺)を目指す展開になることが予想される。
しかし、短期的に上記の展開があるとしても、一連の流れが終われば、揺り戻しで再び150円台に反転することも予想できる。2025年には、現在の150円台よりは円高ドル安方向に変わるとの中長期的な見方は維持しつつ、今の段階でこのまま140円台が定着する方向に進むとは思っていない。その理由は、ドル円を歴史的推移で見た経験則(アノマリーかもしれないが)から判断した点であった。①財務長官の出身母体とドル円相場の関係性、②財務長官の言葉(マントラ、呪文ともいえる)の二つである。
まず①は、金融界出身と、それ以外(学者、政治家、官僚等)の二つのタイプがあり、前者はドル高志向、後者は、変動を嫌い、横ばいかドル安思考であったことで、②との関係では、前者は上院での承認公聴会で、あるいは着任早々質問を受けて、「強いドルは国益である」とのマントラを基本的な姿勢としてを表明していることである。
この政策は、1995年の財務長官・ルービン氏(ゴールドマン・サックス経営者)が用いたことで有名になった言葉で、それ以降、為替政策を推し量る、いわゆる踏み絵のような言葉になった。実際、第一次トランプ政権の財務長官であったムニューシン氏(ゴールドマン出身)もこの言葉を使って同様な立場を明らかにしている。ただ、結果としてはトランプ大統領の発言が優先されたので、財務長官発言に対しては一時的に反応しても、相場に決定的な影響を与えることはなかったという苦い思い出もある。
現在のベッセント効果は、財政規律派として債務削減→金利低下、あるいはトランプ氏と一緒になってFRBへの圧力を加え、金利の大幅な引き下げを要求するとの推測も加わり、ドル安方向に大きな反応をしている。極端な説として、FRBは財務省の監督下に入ることを目指す、とか、パウエル議長に代え、トランプ派の人間(前理事のウォルシュの説がある)を指名するとの報道もある。人騒がせのトランプ次期大統領であるが、上院、下院とも共和党が過半数を獲得、トリプルレッドとなった現在、まさにトランプ氏のやりたい放題となる可能性が高い。否が応でもその動きに対応していかなければならない。
さて、今後1週間の相場見通しであるが、ドル円は、ドル売りが継続し、やや振れ幅が大きいが、149.00-153.00円と150円割れを予想する。一方欧州通貨は、景気後退懸念などファンダメンタルズ悪化を背景にユーロ軟調と考え、今週は対ドルで1.0350-1.0650とユーロ下落を予想、また対円でも156.50-160.50円と大幅下落を予想する。英ポンドドルは、先週末に大きく売られたが、今週も軟調傾向が続き1.2450-1.2750とポンド下落と予想する。
(2024/11/27 小池正一郎)
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